第1章 隣の席の狛枝君
隣の席の狛枝君は、どんな不運に見舞われても、今日のボクはツイてるよ、と言ってきかない。彼が傘を忘れた日に限って土砂降りになったり、みんなで寄り道して帰ろうという日に限って財布を失くす。確か今月は、記録を更新して総額4万7680円落としたと聞いた。路上のどこかで誰かに拾われていったと楽しそうに話していたけど、全く楽しい話とは思えない。彼の生活を見ていても、全く幸運に恵まれているようには見えないのに、私が知る限り、彼はいつも楽しそうだった。
「え?狛枝?…普通に困ったりつまんなそうにしてる時もあるけどなー」
小泉曰く、たまに変なことさえ言わなければ、狛枝はいたって平凡な高校生。
「あ、倉敷さん、そのペン新しくしたんだね。すごく似合ってるけど、機能性重視のキミがキャラクターのついたボールペンを買うなんて珍しいね?」
『よくわかったね、ソニアにお土産でもらったの。秋葉原に行った記念だって』
「なるほど、ソニアさんか。そこまではわからなかったなー」
授業の自習時間。急に担当教員が欠席になり、プリントを埋める作業になった。やたらと失くし物の多い狛枝に、いつものように教科書をシェアしていた途中、話しかけられた。
『それより、教科書失くすってそれはもうイジメに遭っているのでは?』
「えっ…そうなのかな。…まぁ教科書くらいならいくらでもあげるよ。むしろ、ボクとしては全部の教科書を失ってもいいくらいなんだけど」
『そんなこと言って、中間の結果ひどいことになったら知らないよ?狛枝対策で選択問題減らしてる先生多いんだから』
「ははっ、確かに最近記述問題の部分が増えて困っちゃうよ。勉強はしてるつもりだからボク自身は困らないけど、選択問題に山張ってる終里さんに怒られるし」
それはなかなか理不尽だな、と狛枝を不憫に思った。