bond of violet【文豪ストレイドッグス】
第2章 青い瞳
side中島敦
2人で社をつまみ出されたものの、会話というものが全くもって生まれず、僕は呆然と立ち尽くしていた。
クロードさんは僕を綺麗な青い目でじっと真っ直ぐ見つめてくるし、どうすればいいのかもよくわかっていなかった。
「中島、敦さん。」
「へっ、へい!」
一遍の曇りもない瞳で見つめられ、何故か力んでしまった。
「敦さん、と呼んでも良いですか?」
「あ…」
口から出てきたのは今までの行動とは違い、普通の少女もので、無駄に入っていた力は一瞬にして抜けていった。僕は何を身構えていたのだろうかと。
真っ直ぐに向けられる瞳に、下心や悪意は何一つ見えなくて、なんて純粋な子なんだろうと思った。
「はい。構いませんよ。では僕も、“クロちゃん”と呼んでも良いですか?」
「構いません。」
相変わらず表情は何一つ変わらないけど、呼び方ひとつで少しだけ距離が狭まった気がした。
「それで、敦さん。街でお勉強、とは一体何をするのでしょうか。」
「あぁ……うーん。何するんだろう…。」
あたりを見渡すも、そこには道路標識や中小企業の看板しかなかった。漢字の勉強をするにしては、これではあまりに知識が偏ってしまう。
「そうだ!繁華街の方へ行ってみま……よう!」
「了解しました。」
提案するだけなのに、敬語を使うべきか否かの論争が頭の中で勃発する。年下なのだから…でも相手は敬語を使っているしこちらも使うべきか?と。
僕が繁華街の方に歩みを進めると、クロちゃんは1メートルくらいの幅をとったまま僕の後ろを歩いた。そのせいで声も届かないし、どんな表情をしているかも分からない。
くるりと振り返り、その無表情な顔を見据える。
「どうしましたか?」
「あの、後ろだと喋りずらいし、横に来たら……どうですか?」
今頭の中には喋ることなんてなにも無いのに、そんなことを口走った。頭の中の論争も、まだ続いていた。
「はい、了解しました。」
やっぱり彼女は表情ひとつ変えないで、僕の隣にスっと立つ。
彼女を横から見るのは初めてで、まつげの長さに驚き少し、ほぅと見とれた。その横顔をチラと見るたびに、一体彼女はどうして社に来たのか、今までどうやって生きてきたのか、疑問は泉のように溢れてきたが、それらが口から零れることは無かった。