bond of violet【文豪ストレイドッグス】
第2章 青い瞳
クロードは、仕事を理解することに関して、常人よりかなり優れていた。
しかし、理解が早いと言っても、スタート地点が常人よりもかなり後ろだったのだから、特に凄いというわけでは無かった。
「じゃあクロードさん。まずこのパソコンで」
「…パソコン……パソコンとは、一体何でしょうか。」
「えぇっ!?」
「クロード、この書類を」
「漢字は読めません。」
「なっ…」
心中という言葉の意味を正確に理解している彼女だったが、文字もコンピュータも分からない、という有様だった。
「お前、どうやってこの社に…」
「…人の、紹介です。」
「社長が直々に言うんだから何かしら特別なんだろうね。」
手を頭の後ろに回し、脳天気な声を発するのは、社の要である名探偵だ。飴玉を口の中に転がしながら椅子をくるくると回している。
社長が或る日突然、新人がくる、と静かに一言発したことだけが彼女が来る前の彼女の唯一の情報だったのだ。
「クロード、君は何故此処にいるんだい?」
目を細く開き、じぃとそこに居る少女を見つめる。超推理迄とはいかないが、厳しい、選別をするような瞳だった。
しかし少女は、その瞳に怯むことなく真っ直ぐ見つめ返し、泡のように儚い声を発した。
「私は此処で、幸せにならなければならないのです。幸せに存在しなければならないのです。」
その声は、何処までも真っ直ぐで、冗談には聞こえなかった。
「…そうか。」
名探偵は全てを理解したように静かに頷くと、椅子から立ち上がった。
「じゃあクロード!クロードは面倒臭いからクロちゃんにしよう!敦!クロちゃんと街でお勉強してきてよ!」
「へ?僕ですか!?」
「歳も近いだろ?」
「了解しました。」
「え、あっちょっと!」
そして、無邪気な笑顔で彼女と彼の腕を引っ張り、困惑する社員を尻目に2人を街へと放り出した。
「クロ…ちゃん……?」
「乱歩さん、一体何を?」
「んー。ちょっとね」
「それより早く、小学生用の教材でも買ってきたらどうだい?」
「太宰…お前も何か分かったのか?」
「えー?ぜーんぜん分かんない。これから知ればいいのさ。社員の仲間なのだからね。」
包帯男はいつもの底の知れない気味の悪い笑顔を浮かべたまま、窓の外の2人を眺めていた。