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bond of violet【文豪ストレイドッグス】

第2章 青い瞳




カツンカツンという音が、ずっと同じ幅で廊下に響く。彼女の綺麗な髪が、時折窓から漏れる光でキラキラと輝く。


少しだけ旧い、レトロで良い感じのビルの中を、彼女は歩いていた。まだ真新しい服を着て、綺麗な髪は無造作に縛って。手には綺麗にまとめた大きな荷物を持って。


そして、扉の前に立つ。


扉の向こうは騒がしく、絶え間なく声が聞こえてくる。


「新人さん、きっと御美しい方だよ!あー今日は良い心中が出来そうだ!」
「あはは……今日いらっしゃるんでしたっけ?」
「鏡花ちゃん、初めての後輩になるね。」
「…後輩……。」
「確かもうそろそろ来るはずだが…」


彼女はその声は聞こえなかったかのようにノックをする。3回、同じ幅で、同じ大きさで。


「あっ!いらっしゃいましたよ!!」


その歓声を気にもとめず、ガチャリと扉を開け、彼女は部屋に入った。


1歩進み、扉を閉め、改めて前を向き、また3歩進む。全てが最初から決まっていたような動きだった。


社の者達はその作られたように正確な動きと、人形のように整った顔の造形に息を呑んだ。


彼女は声をあげた。耳に入ると泡のように消えてしまいそうな、そんな儚い声だった。


「本日よりお世話になります。クロード・ギヨーと申します。よろしくお願い致します。」


少年、中島敦は、その少女には温度がないのではないかと思った。それが彼女の第一印象だった。


動けない社員達の中で真っ先に動いたのは、包帯を無駄に巻いた男、太宰だった。


「クロードさんと言うんだね!なんと美しい!!歳は幾つだい?」
「……正確には把握しておりません。外見からすれば17くらいであろうと思われます。」
「んー!いい返答だね!どうだい之から私と心中でも?」
「心中…とは、好きあっている男女で行うものです。私は貴方を好いてはいないので、心中は不可能です。」


表情ひとつ変えずに太宰の奇想天外な問いに返答する彼女を見ていると、自分の第一印象は間違ってはいなかったんだと敦は確信した。


これが温度のない少女、クロード・ギヨーの初めての出勤だった。


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