bond of violet【文豪ストレイドッグス】
第5章 明い光
歩幅の違う足並みを、ロクサーナは駆け足で追う。
芥川を斜め後ろから見るロクサーナは、溜息を咬み殺した。
『芥川さんは、殺し過ぎるから。』
先程零した影口を、ふと思い出したからだ。
「ねぇ、待ってください芥川さん。今日もまた、殺すのですか?」
「仕方有るまい。」
芥川はその声のする方へ振り向き、表情ひとつ変えぬまま、告げる。
「人虎を捕獲、輸送する。輸送に利用する業者の口封じをお前の異能で行う。」
「人虎って…あの、同い歳の…!何故そんな」
「お前に知る必要は無い。黙って仕事をしろ。“存在しない魔女”め。」
「っ…」
ロクサーナは足を止め、唇を噛んだ。
自身が“存在しない魔女”と呼ばれていることをは知っていた。噂をたてられ、幽霊の如く扱われていると。
分かっていても、面と向かって言われると、胸が酷く傷んだ。
私は、人。
存在だってしているのに。
「だから嫌いです。芥川さんは。」
「ふん」
ロクサーナはたたっと芥川の前へと駆けでる。
「あっかんべー!」
「無駄な真似するな。」
ひょいと彼女をすり抜ける芥川に、ロクサーナはまた地団駄を踏んだ。
凸凹の二人は、暗闇から明るみへと出る。
これから始まる嵐すら、この組織では日常だ。