bond of violet【文豪ストレイドッグス】
第5章 明い光
がた、ごとりと暗闇が揺れている。
ロクサーナが入れられたのは、トラックの荷台。一番目に付かないからと芥川に押し込まれ、ガタンゴトンと運ばれている。
「乱暴だよー!!ばぁぁぁか!」
不満を叫んでも、車の音で聞こえない。
もう本当に、存在していないみたい。
不安が押し寄せ、ロクサーナの心は押し潰されそうになる。
誰も、知らない。
誰も、覚えていられない。
ロクサーナが膝を抱え、顔を伏せると、トラックが急停車した。
急停車し、扉がバカンと大きく開く。
血と火薬の匂いがする。
悲鳴が煩くこだまして、ただの黒だった荷台の中が、いっぱいになる。
眩い光の中から飛び込んできたのは、
へんちくりんな髪と格好をした、ただの、ごく普通の少年だった。
血で汚れている以外は、ごく普通の、ただの学生に、彼女には見えた。
「あ、あの?」
「僕は…」
扉は閉ざされ、暗闇へと逆戻り。
彼の存在は、声しか分からない。
一瞬混乱した彼女の頭に、はっとひとつ浮かぶ。
「貴方が、件の…」
「誰か…いるのか?」
浮かぶと同時に哀しくなった。
こんなにも普通な、只の少年が、ポートマフィア何てものに狙われているなんて。
「ごめんなさい。」
「…お前は、誰だ。」
暗闇の中から、傷を負ってなお、ロクサーナに敵意を向けている。
敵意はきっと、此処に居たから。
ポートマフィア、だから。
彼とはきっと、友達には
誰だと問われ、ロクサーナは黙り込む。
「答え、られません。私は、知られては…成らないのです。」
「何を…お前は誰だ!」
「…云えません。云っても私は、」
「えっ?」
「存在、しない。」
ロクサーナは、声を頼りに彼へと近寄る。
腕を伸ばし、
膝で歩き、
彼を探す。
膝がなにかに触れた時、呻き声が耳に届いた。
ロクサーナはしゃがみ込み、その暖かな塊へと触れる。
「何っ…を。」
「っ…!」
触れた場所から、ロクサーナの心へと流れ込む。
彼の記憶、想い出、そして痛みが。
孤児だった痛み。
棄てられた痛み。
存在を否定された痛み。
痛みは直接心を襲い、心を喰らう。
「君は何を、」
ポタリとおつる涙に、少年は驚き目を見開いた。
暖かくこぼれ落ち続ける涙が、彼の頬をたたいた。