bond of violet【文豪ストレイドッグス】
第5章 明い光
「ロクサーナ」
呼ぶ声が、部屋に響いた。
白くて、広い部屋に。
静かで、寂しい部屋に。
少女は寝ぼけまなこでその声の元を見た。
遠い夢を見ていた。
なんだか懐かしい、大切な約束。
さっきの声は、夢と同じだ。
とロクサーナはうつらうつらと思う。
少女の白銀色の髪が美しく渦を巻き、輝いている。同じ色の長いまつげのむこうには、まだ眠たげな赤い瞳があった。
「なか、はらさん…」
「なんだ。今日は起きてたんだな。」
いつもの声に、ロクサーナは瞼を震わせる。
毎朝、白銀の髪のあいだから覗く瞳が、彼は好きだった。
紅く宝石のように輝く瞳が、彼は好きだった。
「今日は、なに…を…」
「仕事だ。」
「……」
少女は一度目を瞑り、こくんと首を曲げる。
「おい、寝てんなよ!」
「寝てない!…です。」
中原は髪をかき分け紅い瞳を見つけ出す。
手でロクサーナの顔を包み込み、それから力いっぱい、
抓る。
「いっひゃああ!!」
「よく聞け、俺とじゃない。」
「へ?」
頬をつままれた状態のロクサーナは、気の抜けた声を出す。中原は口にぐっと力を込めて、それからひと思いにことを話す。
「俺とじゃなく、芥川とだ。」
「えっ……ええぇぇ」
少女の、驚きと、不安と期待の入り混じった声が、何も無い部屋にこだました。