bond of violet【文豪ストレイドッグス】
第5章 明い光
『ねぇ、中原さん。』
『あ?なんだよ。』
『太宰さん…って中原さんのお友達?…ですよね?』
『げぇっ!!手前何言ってんだ気色悪いこと言うな!今後一切言うな!!』
『ふふっ』
ロクサーナは彼の壮絶な顔を見てくつくつと笑った。
笑ってその後、下を向いた。
一度口を噤んで、また言葉を発する。
『一度彼と、話してみたいな。』
『彼奴の話をこれ以上続けんな気色悪い!!…それに彼奴に知られたら手前は、』
『居場所を失う。分かってますよ。』
悲しげに笑う彼女に、彼は何も返せなかった。
ロクサーナは、記憶操作の異能。
彼女の存在を広く知られてしまえば、記憶操作の効力が薄まる。いつ誰が裏切ってもその記憶から消して、存在を無くせるように、ロクサーナは準備されていた。
太宰に至っては、異能が効かないのだから論外だ。
横から見るロクサーナの瞳は深く深く、彼は狼狽えた。
『私の存在なんて、すぐ消えてしまうものです。風が吹いて葉っぱが落ちるより前に、私の存在は消えてしまいます。』
目を瞑り、深い目が見えなくなる。
『誰も覚えていられない、不確かな存在です。』
『手前は、』
『まぁ、さようならは慣れてますから。この道に望みなど無いことも知ってます。』
彼女はそこまで言って立ち上がり、彼へと笑顔を向ける。
英雄のような、一番星のような、悲しいような、戯けたような、
優しい笑顔で。
『存在していなくても構わない。少しでも、照らせたらと、希望になれたらと、思うのです。』
現に、ロクサーナがいるお陰にポートマフィアでは拷問は行われない。口封じの為に殺しを行うことも。
ロクサーナは夕日を向いて、まっすぐ告げる。
『いつか忘れられてしまっても。いつか誰かの明かりを、灯せたら。』
赤い瞳がいっそう赤く。
夕陽が赤く輝いて。
『何馬鹿なこと言ってやがる。』
真っ暗で、出口のない闇。
その世界に揺れる一遍の光。
明かりを灯されたのは、他でもない彼だ。
『お前の事など、忘れたくても忘れらんねえよ。』
『…忘れたいなんてひどいなぁ。でも嬉しい…。憶えててくれるなんて、まるで金曜日!』
『はぁ?』
『約束、してくれます?』
『ああ、約束するよ。お前を、忘れない。』