bond of violet【文豪ストレイドッグス】
第3章 苺の赤
中原はロクサーナを抱え、ふわりと地面に足をつけた。ビルとビルの間で、丁度誰も見ていない。其れを確認し、息をつく。
「あのう……。この体勢…少々…恥ずかしいな……なんて、思うんです……けど」
その抱え方は、世にいうお姫様抱っこだった。
ロクサーナは腕の中で真っ赤になって訴えた。
一応、年頃だから。
「ほう。一丁前に羞恥心はあるんだ…なっ!」
「うぇっ?あっいだっ!!」
中原はニヤリと笑みを浮かべると、その腕をサッと離し、ロクサーナを地面に落とした。
「なにするんですか!!骨折れちゃいますよ!!」
「お前の骨なら大丈夫だろ?極太。」
「なんか極太嫌です…。」
彼女には内緒だが、すこしだけ異能を使って威力は軽減させたのだ。いつだって彼は優しいし、彼女もなんとなくそれが分かっていた。口には出さない、暗黙の了解だった。
「さて、はやく行きましょう!」
「分かってんだろうな。お前は人に知られちゃ価値なくなるんだ。ちゃんと終わったら異能力使えよ。」
「……分かってますよ。」
彼女は彼に顔を見せないまま駆け出す。
その顔は、なんだかとても悲しそうな顔だった。
「中原さん!私、苺にします!」
「へぇへぇ。」
受付の前でウキウキとする少女と、思ってもみない出費に眉間にシワのよった青年。
その様子は、兄妹のようにも、親子のようにも、恋人のようにもみえた。
「前も苺じゃなかったか?同じので飽きるだろ。」
「いいえ!見てください、ほら!」
クレープをパッと出し、そして自身の目を指差す。
どちらも綺麗な赤だ。
「お揃いです!」
「……」
パクリ
ロクサーナが出したクレープにパクリと噛み付く。
「あぁ!!食べた!!食べられた!!」
「…まぁまぁ。」
「そしてまぁまぁって言った!!」
彼女はぷんぷん怒りながら、もう二度とあんなことするもんかと決意した。
彼女は赤が好きだった。生まれつき赤色の目で、自然と同じ色を好きになっていった。
「赤い目…綺麗ですよね?私、そこは取り柄だなって…思ってたんですけど。」
「…綺麗な目といやぁ青だな。金髪碧眼だろ。」
「むぅ……エリスちゃんのことですか?」
「餓鬼は対象外だっての。」
だべりながら街を眺める。
ここだけ切り取れば、普通の2人のようだった。