bond of violet【文豪ストレイドッグス】
第3章 苺の赤
「美味しかった…!」
そう言ってロクサーナはクレープを包んでいた紙を丁寧に畳んでいる。その横の中原の顔は、苦虫を噛み潰したような顔である。
「ほら、食い終わったか?」
「はい。」
「じゃあ早く異能」
「わ……分かってますよ!今やるところだったんです!」
ロクサーナは宿題をやってなかった小学生のような事を叫び、たたっと駆ける。
下を向いていて中原からは顔は見えない。中原は、辛い思いをするのなら何故クレープなんか食べに来たんだと怒りにも似た心地で立っていた。
そして、彼女は異能力を使った。
彼女が普通の少女だと言えない、決定的証拠を。
「異能力、ロビンソン。」
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異能力名:ロビンソン
・人の記憶を操る。
記憶を忘れさせたり、嘘の記憶を植え付けたりする。触れていなくても発動するが、触れていた方が威力は高い。
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その異能力は彼女を中心に徐々に広がっていった。
そして全てが終わった時、クレープを食べていたカップルも、受付のお姉さんも全員、彼女のことを覚えてはいなかった。まるで最初から、何もいなかったかのように。
「……終わり、ましたよ。中原さん。」
「ん。じゃあ帰るか。」
「全然みんな私なんか見てないじゃ無いですか…。使う意味あったんですか?……言ってて悲しいんですけど…。」
「お前は組織の最高機密なんだって何回言ったら分かる。少しでも記憶に残ってもらっちゃ困んだよ。」
「……はい。」
そして存在しない彼女は、男とともに侵食し始めた夜の闇に溶けていった。