bond of violet【文豪ストレイドッグス】
第3章 苺の赤
『よく戻ったね。』
『明日戻ることにしなさい。今日は休め。』
彼はある場所へと向かっていた。
あの、彼女のいる場所へ。
白いあの部屋へ。
その部屋への扉の前に着く。
誰も目につかぬ、淋しき場所。
何故なら彼女は、殆ど誰にも知られていないのだから。
「ロクサーナ。…ってクソ彼奴いねぇ!!」
扉を開ければそこは白。
白しかない世界だ。
彼女は何処にもいなかった。
「…変わってねぇな全く。」
イライラとした口調で独り言を呟く。
彼には彼女が何処にいるかも、なんとなく分かっていた。いつものお決まりだったと、思い出す。
自分が居ない時、こうして彼女を探すものなど、居なかったのだろう。
そこは高い、ビルの上だった。
「おい!!また脱走しやがったな!!」
「げ……中原さんだ。」
夕陽の光で溢れる中に、彼女はポツンと1人座っていた。
ビルの縁に座った彼女は、男の方を見ると苦い顔をした。
「だってあの部屋の中だけで生きてたら暇すぎて死んじゃう!暇死にです。」
「うるせぇこのっ!」
「いだ、いだだだ!!ごめ、ごっめんなさいごめんなさい!!」
こめかみに拳をあて、グリグリと力を込める。そうすれば彼女は涙を流しながら謝罪をした。
その光景は、じゃれあっているように見えた。
「探してくれるのは、矢っ張り貴方だけですよ。」
「…。」
静かに告げる。
それからぱっと、笑顔で男を見た。
「今日起きたこと、沢山話してくれるって言いましたよね!私待ってたんです!」
「あぁ。話してやるよ。まぁ大概つまんねぇ話だかな。」
そして男は話し出す。
少女は、それを嬉しそうに聞いていた。