bond of violet【文豪ストレイドッグス】
第3章 苺の赤
真っ白な部屋に、色がひとつ、見える。
雪のような白の中に、少女が1人、溺れていた。
「んむ…むにゃ……。へ、へへ……まってぇ……まほうの…かつら……。」
なにやら全く意味の無い夢を見ているようで、綺麗な髪を布団からこぼして眠っている。
もう昼過ぎだと言うのに。
「ロクサーナァァァ!!!」
「んびゃあ!」
男のとてつもなく大きな怒号が部屋に鳴り響く。
そしてやっと、彼女の紅玉のような紅い目がボサボサの髪の中からチラリと覗く。
「なかはら…さん…?…はよござ……ま……せ…」
「挨拶しながら寝る奴が何処にいる!あぁ此処にいるなぁ!!」
「いひゃ、いひゃいぃ!ごめんなひゃい!!……いや、中原さん!!」
男が頬を抓ると、彼女は涙を流しながら謝った。手を離すと怒った顔をして自分の頬をさする。
「なんなんですか!!もう!別の起こし方ないんですか!!」
「あぁ…無い訳では無いぜ。」
「でしょう!?」
「異能りょ」
「それは無しです!私死ぬじゃないですか!」
久しぶりに、男は安らいだ。
自覚などは一切なかったが。
「おかえりなさい、中原さん。」
「ああ。それより服を着替えろ。」
彼女はふっと頬を緩め、男を見上げた。
「私ずうっと、此処に。誰も、来てくれないし。」
「遅くなった。また帰ったら沢山話、聞かせてやるから。」
「…約束ですよ?」
一瞬寂しそうな顔をして、また嬉しそうな笑顔に変わる。
「じゃあまた。」
「じゃあまた後でな。」
彼女は一人残され、ベッドに座る。
ここには色はなく、白い。
今日も彼女は、白い部屋に溺れ続ける。