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三成さんと永利さん

第1章 三成さんと永利さん


32

同情を誘うような悲鳴が響くが、そこに居る者たちは誰も耳を貸さない。
そうして遠ざかるそれを背中にして、のんびりとした動作で立ち上がった永利がぐっと伸びをする。

「さて、当面の憂いは取れたやろし凛ちゃんも疲れとるやろう。俺はそろそろ帰るわ」

ゲッセイとコウガを呼び寄せ、ご苦労さんと労いその身を自分の影へと沈めた永利は満足気に微笑んで凛とその隣に立つ蜻蛉切を見る。
冒頭にあった悲鳴は少し前にわざわざこの本丸に乗り込んできた審神者不適合者のモノだったが、それも政府への引き渡しを待つのみとなり今は下手すれば凛の本丸の刀剣たちに何かしらやられているかもしれない。
過剰防衛になり過ぎないように、と注意はしたのでせいぜい精神的に壊れる程度だろう。大したことではない。
そんな風に考えている永利は、同じように立ち上がった三成とその奥方の市を見る。

「三成たちも帰るん?」
「まぁ、今日の所はな。落ち着くまでは多少出入りした方が良いかもしれないが」
「せやねぇ……」

ゆったりとした口調で聞く永利に、三成もいつもの表情でコクリと頷く。
それから凛を見て、僅かに目を眇めながらの呟きに永利が頷いた。自己防衛が出来ないのでは、またこういう案件が浮かび上がる可能性はある。
特に霊力の弱い者が凛の霊力を狙ったり、今回の様に邪な想いをも付随させて凛そのものも狙う可能性もある。
多分、今回の輩は色々な意味で凛の運が良かっただけだ。連れ去りが上手くいっていれば、多分、凛の命すらその身体に飽きればなかったに違いない。
封じられた呪法には、他人の霊力を己のモノとして吸収してしまうことも可能なモノも数多存在するのだ。

「しばらくは大丈夫やろうけどな。今のうちに自衛手段を検討して身に着けるんは大事やろうなぁ」

生命がいつまでも大丈夫、とは限らない。平和そうに見えるが、ここにはそういう紙一重的な状況が成り立っている。
僅かに顔を曇らせた凛とそれを安心させ、守る様に立つ蜻蛉切に目を細め、ふっと柔らかい笑みを零した永利は自分のこんのすけを呼ぶとゲートを繋ぐように告げる。
そうしてから、ことさらのんびりとした何でもないような口調で凛に告げる。

「大丈夫やて、これも何かの縁やろうし何かあれば声掛けてくれたら手伝うたるから。きっとそこのお人よしも俺に対してよりもずっと素直にうんって言うてくれはるで?」
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