第1章 三成さんと永利さん
「先日は大変有益な助言を頂きありがとうございました」
「その様子だと、凛には喜ばれたのか?」
「はっ! 翌日も髪ではありませんが、茶器に浮かべて傍に置いて頂けました!」
「そりゃ良かったなぁ……で?」
「で、とは?」
蜻蛉切は話し始めると堪えきれなかったようで、途中途中桜がふわふわと散っていたが永利も三成も市すら気にせず様子を見て話を聞いていた。
終わった後、永利が更に突っ込んで聞こうと声を掛けると、きょとんとした表情の蜻蛉切が疑問を返してくる。
まるで気付いていない様子に永利と三成は顔を見合わせてしまうが、市だけは蜻蛉切と共にきょとんと首を傾げている。
「……おい、どないするよこれ」
「どうするもこうするも……無自覚か?」
「いや、自分の気持ちには気付いとったと思うけど……うーん、つまり、俺らに相談に来たアレは純粋に贈り物の事だけで告白云々はなかったってことか」
「……そういうことだろうな」
「あの?」
永利が三成に身を寄せてこそこそと会話していると、不思議そうな表情で蜻蛉切が声を掛けてくる。
その声に、若干脱力しながらもこれは面白い観察対象が出来たと口角を上げた永利と、その永利に振り回されそうだなぁ……と諦めの境地に至っているだろう三成が顔を上げる。
「なんでもないで。なんか続きの話がないんかと思って聞いてみただけやから」
「続きの話、ですか?」
「せや、茶器に浮かべた花をその後どうした、とかな」
「はぁ……あれは、確か……」
永利が誤魔化すように言えば、更に首を傾げた蜻蛉切ににっこりと笑みを浮かべたままそうそうと頷く。そのまま話を聞きだそうと話題を広げる永利を眺めながら、三成はお茶をすすりながら市とのんびりと時間を過ごす。
やがてそれは三成の本丸では良く見る光景になり、その後の蜻蛉切たちの経過などもいつの間にか聞きだされていて色々と事件が起こったりもするのだが。
これも穏やかと言える日常の一部となって語り継がれていくことになるのだが、それはまだまだ先の話である。