第1章 三成さんと永利さん
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市と凛が部屋に戻り、光忠がお茶を配り直して出て行ったところで永利が三成と市に目配せをしてから口を開く。
「さて、落ち着いた所で改めて自己紹介した方がええかな? 俺は永利、こっちは三成とその奥方の市姫、狼は月色の方がゲッセイ、闇色の方がコウガや。俺と三成が審神者で、奥方の市姫はイレギュラー、ゲッセイとコウガは俺の式や」
簡単に自分側の紹介をした永利に、凛とその近侍の蜻蛉切も名乗る。
互いにきちんと名乗りあった所で蜻蛉切が先ほどのの件は……と、早速本題を口にしてきた。永利はそれに軽く頷いて、順序立てて説明できるように僅かに考える仕草を見せながら説明を始める。
「結論からいくと、今回の凛はんが攫われたんは仕組まれたことや。何が目的なんかは捕まえてみんと判らんけどな。十中八九、凛はんの潤沢な霊力を狙った犯行やないかと思う」
何ともない表情で、淡々とそう言い放つ永利にゴクリと喉を鳴らしたのは蜻蛉切か、凛か。
永利の横に座している三成も、特に表情を変えることなく軽く目を閉じて話を聞いている。
「理由はいくつかある。一つ目は亜種が凛はんを連れ去ったタイミング。二つ目はさっきも説明したけどこの本丸の状態。これだけ凛はんの霊力に満ちとる場所で、敵意を持つ亜種が隙を突いて動けたとして逃げ切れたとは思えん。三つ目は……これや」
すっと、何かを描きつけてある和紙の上を自分の前に差し出すと、凛と蜻蛉切がそれぞれそれを覗き込んでくる。
こんのすけはそれを見た瞬間にソレが何か分かったのか、目を見開き毛を逆立てていた。
和紙に描きつけてあったのは邪気封じの結界で、その上に乗っていたのは小さな石の欠片だった。
本来なら透明であるだろうそれは、どす黒く濁り、砕けたにもかかわらずその中心にどろどろとした瘴気が渦巻いている。
「どっか腕の立つ奴が作ったんやろうねぇ……本当に僅かな霊力だけで式とかそういうのを操れるようになっとる。コウガに追って貰ったけど、途中で途切れてしまったんで犯人の居場所までは特定できんかった。呪詛返しをすれば追える可能性はあるんやけど、その場合こいつを作った奴に戻る可能性が高い」
「永利」
「ああ」