第1章 三成さんと永利さん
永利の言葉に対して疑問を口にする蜻蛉切に、三成が端的に答えればこんのすけが叫び声を上げる。
そう、普通ならあり得ないことだ。審神者を攫うなどと言う行為を、他人の領域であるここでやるのは非常に手間である。
自分の霊力が相手を上回っているならともかく、ざっと目算だけでも凛の霊力は審神者の上位クラスに入るものだろう。
質も、量も、だ。その霊力が満ち満ちたこの場所で、亜種を操り連れ去るには相当綿密な計画が必要なのだ。
「亜種の気まぐれに巻き込まれた可能性もないわけやないんやけど、今回は計画的犯行の方が強くてなぁ……」
『主、今戻った。やはり、三成殿が倒したアレには核が埋め込まれていた』
「コウガ、お帰り。やっぱりかぁ……しかも、微力な霊力でも操れるようなやつやろ?」
『ああ。霊力を追ってみたが、微力すぎて途中で掻き消えていた』
説明を始めた永利の言葉の隙間を縫うように、闇色の毛並みが表れ、コウガが結論を告げる。
それは、永利の予想を決定づける物だった。再び、シンッと静まり返る室内に重たい空気が流れる。
誰も言葉を発しないそこに、次に水を差しいれたのはとてとてという小さな足音だった。
顔を上げた蜻蛉切が慌てて廊下に出て行き、声が聞こえてくる。
「主、大丈夫なのか?」
「うん、蜻蛉切さんはもう大丈夫?」
「大丈夫だが、すまない。主を守れなかった……」
ぼそぼそと、聞こえてくる声に部屋の近くに来たのが本丸の主である凛だと知れる。
まだ二言、三言と会話が交わされるが、暫くして足音が遠ざかって行くと蜻蛉切が部屋に戻ってきた。
「着替えて、主がこちらに来るそうです」
「市、手伝ってくる、わ」
「ああ、頼む」
「はい、三成さま」
「したら、凛はんが来はったら今後の相談しよか? 多分、この一回の失敗で諦めたりはせえへんやろうから。ゲッセイ、コウガが持ってきたアレを結界で閉じてこっちに送って」
『御意』
蜻蛉切が渋い顔をしながらも、主である凛が来ることを告げた所で市が立ちあがり手伝いに向かう。
そうして凛が来るまでの間に場が整えられた。ゲッセイとコウガが拾ってきた情報と、その先にある事件性についての話し合いは凛が来てから始められることとなった。