第1章 三成さんと永利さん
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通された部屋で永利がのんびりと方々に散った他のメンバーを待っていると、人心地ついたらしい三成と後を任せた市が入ってきた。
「お疲れさん」
「ああ」
「永利さまも、お疲れ様」
無愛想な返事を返す三成と、にこりと微笑んで労いを返す市に永利ものんびりとした笑みを浮かべる。
本来なら、そこで合流してじゃあ……と帰るべきであるのだが、永利は相変わらずのマイペースさを表に出しながら珍しく鋭い気配を纏っていた。
三成がそれに気付き、僅か険しい顔をするとふっと笑みを零す音が永利から漏れる。
『主……』
「ああ、お帰りゲッセイ。コウガは?」
『すぐ戻る』
「さよか。で?」
『主の読み通りのようだ』
「ふうん?」
三成と市が座ったタイミングで、スルリと現れたのは月色の毛並み。ゲッセイが大型犬ほどの大きさで永利に寄り添いながら言葉を紡ぐ。
「永利……」
「ああ、まぁ……あれで終わるわけないわなぁ」
「自分の身の程も知らぬ馬鹿が、身の丈に合わぬ力を欲するか」
名前を呼ばれ、視線を合わせた永利が無言の問いかけを肯定すれば嫌悪を露わに三成が呟く。
シンッと一瞬静まった室内に外から音が入る。
「失礼する」
入ってきたのは蜻蛉切で、脇にこの本丸――凛付きであるこんのすけが従っていて中に入るとその場に座り揃って深く頭を下げた。
「この度は、我らの主をお助けくださりありがとうございました。先の戦いで重傷者が多く出てしまい、警備が手薄になったところを突かれて連れ攫われてしまった次第。気付くのが遅れ初動の早い短刀たちが駆けつけるまで間があったため、追いすがることも出来ず……」
悔しげに、凛が連れ去られた経緯を説明する蜻蛉切に黙って聞いていた永利が待ったをかける。
そのことで頭を上げた蜻蛉切が、真っ直ぐ射抜く様に永利を見つめてきた。その強さに、苦笑とも微笑ましいとも言える笑みを浮かべ、永利は手を上げ言葉を止めた。
「まぁ、今回の騒動については説明はええよ。その前からの話を聞かなあかんから」
「どういうことですか?」
「この連れ去りが、計画的犯行の可能性が高い、ということだ」
「まさか……!」