第1章 三成さんと永利さん
永利の腕の中、思考も一瞬止まったのか言われたままに呼吸を繰り返したこんのすけが漸く逆立った毛を治め始めると三成の確認にコクリと頷く。
その様子に良く出来ました、と永利が頭を撫でてやるとしょんぼりと項垂れながら謝罪を口にした。
「構わんけど、どうしたん? なんや緊急事態って感じやったけど」
「そ、それが……常とは違い手入れに入る刀剣が少しばかり多かったばかりに警備が手薄になった場所がありまして……気付いたら、うちの審神者が誘拐されていたんです」
「審神者が誘拐?」
「なんやそれ。君の審神者、そんな恨み買うたりするタイプなんか?」
「まさかっ! 可愛らしくてお優しくて本当に私よりも小動物の様な愛らしさなのに、非常に自分に自信がなくていつでもおどおどして他人の評価を気にしている方です! 恨みを買うなんて絶対出来ませんっ!」
誘拐、と聞いて私怨が真っ先に思い浮かんで確認した永利に、がばっと音がしそうな勢いで顔を上げたこんのすけが詰め寄って反論する。
それを聞きながら、どんな審神者だ? と首を傾げた永利は更に問いかけながら詳細を明らかにしていく。
三成の方は面倒事を避けようと思っているのだろうか口は出さないが、さり気なく永利に引き止められていて半ば巻き込まれるのを覚悟している顔で遠い目をしている。
もしかしたら奥方の市を思い出して帰りたい、と内心で呟いているかもしれない。
「私怨やないなら、恋慕かねぇ……どっちにしろ、審神者が自分の本丸で誘拐されるっていうんは問題やねぇ……なぁ? 三成」
「あー……貴様、首突っ込む気満々だな」
「まぁ、多分、コレに呼ばれてたんやと思うし? 今日、出陣ついてったらなんかある、って思って来たからな。付き合うてくれるよな?」
にっこりと笑った永利に、がっくりと肩を落とした三成が深く深く息を吐いたのは仕方がないことかもしれない。