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三成さんと永利さん

第1章 三成さんと永利さん


18

「で、貴様は何用で来た」
「へ? 別に用はないで?」

風呂から上がり、身なりを整えた三成が客間に現れ開口一番発した言葉にきょとんとした表情をした永利がのほほんと返す。
市はその様子を微笑んで眺めていたが、戦を終えたばかりの三成はピキリと青筋を立てて永利を睨みつける。
一触即発の雰囲気に永利の内側に居るモノがざわりと動き出すが、それを無言で制したのは永利本人で気が立っている様子の三成に苦笑を浮かべる。

「なんや、手ごたえのある様な奴は居らんかったん?」
「……貴様に何が解る」
「さぁ? せやけど、戦に出るもんはその背に自軍の兵の命やその背後に自分が守るべき国や村があるんは知っとるよ。俺も遠い昔にそういう場所に居ったからな」
「ふん 目障りだ、用がないなら帰れ」

三成の気配が鋭くなるのを特に怯えることもなく受け止め、首を傾げた永利が遠い過去を懐かしむように呟くのを聞けばそれ以上言葉はなかった。
気まずげにそっぽを向いた三成が邪険に追い払おうとするのを常の笑みに戻った永利がまぁまぁ、と押し留め出して貰っていたお茶を飲む。
市に促され、三成も市の隣で座ってお茶を飲みながらしばし沈黙が落ちる。

「気ぃ立ってるんやったら、手合せでもするか?」
「あぁ?!」
「突き抜けるほど暴れてこれんやったんやろ? 慣れとっても、それとこれとは別やろし」
「……本気で言ってるのか? 今の私は手加減できんぞ?」
「うん、まぁ、死ぬこたないやろ。あ、でも真剣は堪忍な。あんたの居合は木刀でも真っ二つになりそうやし」

ニヤリと笑った永利に、僅か毒気を抜かれた三成は今度こそふっと鼻で笑うと立ち上がる。
ついてこい、という風に客間を出ると道場へ向かう。永利は再び苦笑しながらその背を追うと、市も片付けを誰かに任せたのか追いかけてくる。
道場の入口では三成が既に木刀を二本手に持ち立っていた。永利が着くと、無言で一本を差し出してくいっと顎を中へと向ける。
ふっと笑った永利が木刀を受け取ると、三成は先に道場の中央へと出た。中では幾人かの刀剣たちが鍛錬をしていたが、顔を出した三成と永利に興味津々な表情を浮かべ手を止めると場所をあけた。
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