第1章 三成さんと永利さん
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ザアザアと強い雨が身を打ち付けて
身体中で浴びた返り血を少しずつ流していく。はぁっと息を吐くと白い息が出そうに寒い。
「三成」
「…何だ兄上」
「お前は終わったらそのまま本丸に戻りなさい」
「…分かった」
目の前に群がる敵の兵を睨みつけ、斬り殺していく私は修羅か羅刹か
まあ、凶王という名が定着しつつあるからどうでも良いけど
また1人首を跳ねてから。ああ、そういや市を独りにさせてしまっているな。
運よくあの永利が現れていれば良いのだが。
今は、何と言うか。トランス状態に陥ってるので本丸に戻っても正気で居られるか分からない。
血で真っ赤に染まった私をあの男は笑うであろうか。
戦の終了を告げる法螺貝の音が響く
誰かが大将首を取ったか。婆娑羅者の多いこの毛利軍に喧嘩を売るのが間違ってると思うのに
馬鹿だよね、としか言えない。
走って本陣の元就に顔を合わせ、頷いたのを確認してから。
市達の待つ本丸へのゲートを開いた。
「あれま、奥方1人かいな」
「うん、三成さま。今日、戦なの」
ああ、だから先日は主の元就公が来ていたのか、と永利が納得したとこで
今日の土産を奥方に渡すと嬉しそうに微笑み、近くに居た乱に渡す。
「三成はいつ帰ってくるんかねえ」
「もうすぐよ、すぐ」
「分かるん?奥方」
「三成さま、お強いもの」
ぎゅうっと蛍丸を抱き締めて笑う奥方は余裕の表情で
まあ、確かに強かったけど。三成達の世はあの位ゴロゴロと居るんちゃうの?
バシャッと、こんな天気に水の音が聞こえて
何だと向いた先は
ゲートをくぐって帰って来た、血にまみれた三成。
市と共に近づくと自分に気付いたのか少し顔を顰めた
「お疲れさん、向こう雨やったん?」
「ああ、視界が悪かった。普通の兵なら動けないだろうがな」
「その血は全部返り血?」
「怪我はしてない」
迎えに出て来た大典太に刀を預け、庭で鎧を脱ぎ
赤に染まった銀色の髪を井戸水を被って軽く流し血で本丸を汚さない様にしてから
風呂へと向かって行く。
「マメやなぁ」
「三成さま、だもの」
まあ、濯ぎが終わってから土産でも食おうかと、奥方と共に客間へ向かった。