第1章 三成さんと永利さん
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「自己紹介ついでに、奥方には見えてはるみたいやしついでにこの子らも紹介しとこうかな。ゲッセイ、コウガ」
『ここに』
『お呼びか、主』
自分の内に、影に、それとなく潜むそれは永利と生を分かつモノである。
使い魔とも式とも微妙に違うが、便宜上そう分類しているモノで生まれた時から共に在るモノであった。
実体化して姿を現したのは座った永利と同じほどの丈の大きな一対の狼。片や月色の毛並みに蒼い瞳で、片や漆黒の毛並みに月色の瞳で静かに永利の左右に並び立っている。
後ろに控えた太郎、次郎、五虎退はその姿を見慣れているのか特にリアクションは起こさず、五虎退は少しだけ嬉しそうに顔をほころばせている。
現れた二頭に目を輝かせたのは市だけだったかもしれない。しかし三人に凝視されて軽く首を傾げた大狼は主である永利を見やって指示を待っている。
「奥方がお前ら見えはったから、紹介しとこう思ってな」
『そうか……』
「せや。こっちの黒いのがコウガ、月色のがゲッセイや。それぞれ得意なことは違うけど普段は俺の内側に居って呼ばんと滅多には出てこんけど」
「可愛い……」
「触りはる?」
「いいの?」
「構わんよ。ゲッセイ、コウガ」
問う視線にのんびりとした永利の声が返り、気持ち肩ががっくりと下がったようなゲッセイとコウガが名を呼ばれて頭を垂れる。
礼を取った後、敵意がないことを示すようにその場で伏せれば先ほど以上にニコニコとした市が目に入り、永利は笑いながら声を掛けた。
ピクリと身体を揺らすゲッセイとコウガの首筋を宥めるようにそれぞれの手で撫でながら、確認してくる市に頷いた永利が名前を呼べば二頭は抗うことなく立ち上がり市の傍へと近づく。
三成の方はやはりまだ警戒するのか注視しており、その視線にゲッセイが少しだけピリピリとした警戒を見せたが繋がりから流れる穏やかな主の霊力にそれを治めた。
二頭が目の前に座れば、市は顔を綻ばせて首筋に手を伸ばし撫で始める。
どちらも普通の狼とは若干毛並みが違い、柔らかく手触りが良いはずで楽しそうに撫でる姿に永利は満足げな表情を見せた。