第1章 三成さんと永利さん
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「うーん、やっぱり時代の人なんやねぇ……。俺は頼宮永利。現実では今んとこ一介の学生やっとるよ」
よろしゅうに、と微笑む永利にやはり微妙な顔のままの三成とにこにこと微笑んでる市、それに面白そうな顔で眺めている元就となかなかシュールな光景である。
永利の後ろに控えた太郎と次郎の顔が微妙に引き攣っているのを、不思議そうな表情で五虎退が眺めている。
「で……?」
「ん? ああ、用件やっけ? 別に特にないよ」
「はぁっ?!」
「アポの理由は、あんたが警戒しとるからや」
低い声で再度訪問用件を問いかけてくる三成に、きょとんと首を傾げた永利は直ぐに思い出してのほほんと告げる。
お茶を出してくれる市におおきに、と答え一口頂きながら自分の返答にピキリと青筋が立った気がする三成を見る。
アポをわざわざ取ったのに用件がないとは、と今にも怒り出しそうな様子に苦笑を浮かべ肩を竦めながら素直に理由を述べる。
永利がわざわざ訪問前にアポを取った理由は簡単だった。初対面で出会った時の出来心、ちょっとした悪戯心で仕掛けた死合いについての心象を慮ってである。
そんな繊細な心があるのかと問われれば本人は否定も肯定もしないわけだが、それなりに気遣いは出来るつもりでいる本人である。
だがしかし、そんな気遣いに三成はじと目で永利を見ていた。
「せやから、初対面のちょっとした悪戯であんたものっそい警戒したやろ、俺のこと。なんに、連絡もなしに邪魔したらいくら奥方がええて言うとっても嫌やろうってこと」
ここはあんたのテリトリーやろ? と、苦笑しながら言う永利に嫌そうな表情をする三成は、しかしアポの理由を理解したらしい。
「だったら最初からあんなもん仕掛けるな!」
「せやかて、あんなとこで審神者に会うんは珍しいからなぁ。よっぽど腕が立つんやろう、思ったらそら仕掛けな勿体ないやん?」
「なんだそれ……」
飄々とした態度で、笑みを崩さずのほほんと言い切った永利に脱力したのは三成の方で気の毒そうに太郎と次郎が見つめていた。
何か弁解しようかと口を開きかけた太郎も、何の弁解も浮かばないと申し訳なさそうに肩を落としている。
そんなやりとりを楽しげに見ていた元就がいつの間にか手に持っていた扇子をパチリと閉じた。