第1章 三成さんと永利さん
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「え、い、ちゃん。何見てんの?」
「おう、次郎か。内番どないした?」
「あらやだ、休憩よ、休憩。で、何見てんの?」
執務室にしている部屋で仕事の片手間に何かを見ている永利に、内番をサボっているのだろう次郎が顔を出し問いかけてきた。
その背中側から肩にもたれかかって覗いてくる次郎を受け止めながら、手に持っていた紙を見えるようにする。
覗き込んだ次郎は、そこに並ぶ数字とアルファベットの羅列に首を傾げる。
「なあに、これ」
「三成の本丸のコード」
「……ん?」
「ゲートつなげるコードや。三成の奥方はおもろいなぁ」
完結に返事を返されてきょとんとする次郎に、もう一度言い直した永利はそれを渡された後の三成を思い出してククッと喉の奥で笑う。
とはいえ、それを直ぐに使うつもりのない永利は次郎を背中に貼り付けたまま仕事を再開し、時折ちらりとコードを眺めては考える。
さて、どうしようか……と。
「じ~ろ~お~……」
背中に居るし、丁度いいから次郎にでも聞こうかと永利が思い立ったのと同じタイミングで、背後からどすの利いた声が響いた。
その声に、主に永利の背中に乗っかっていた次郎が大きく跳ね上がり、その余波で永利がぐぇっとくぐもった声を漏らす。
「貴方と言う人は! 内番をサボるとはどういうことですかっ!」
「あ、兄貴っ! 待って、待って、ちょ、ちょーっと休憩! 休憩してただけだからっ!」
「一時間も二時間も場から離れて遊びほうけているのは休憩とは言いません! 今日と言う今日は貴方のお酒は取り上げますよッ!」
「そ、それだけはっ!」
首根っこを引っ掴まれたのか、べりっと言わんばかりの勢いで背中から剥がされた次郎が半泣きの声で太郎に言い募っているのを聞きながら永利は再び自分の仕事を再開する。
次郎に内番を任せた時に必ず起こる騒動なのだ。初めて見た時も一瞬きょとんとしたものの大して驚きもせずのんびり見送った永利である。
既に日常茶飯事と化した今は気にすら留めないので、太郎からお邪魔しましたという言葉を投げられて片手を軽く挙げながら応えまたちらりとコードを見る。