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【DQ11】星屑の旅人

第8章 騎士の国の旅芸人


サマディーの街区は今日に限ってはひどく閑散としたものだった。
当然ながら、住民も観光客も、そのほとんどが名高いレースを一目見ようと会場に向かってしまっている。
普段は人であふれる大通りも、今日ばかりは物寂しい有様である。
時折、レース会場の方角から吹き込む風に乗って、歓声と興奮のほんの切れ端が漂ってきた。
ほぼ無人の大通りに、辛うじて出店している露天――それぞれ致し方ない理由があるのだろう――の主たちは、軒並み消沈した顔つきだった。
無理もない。
客はいないしレースは気になるし、なんであれ商売どころではない。店主たちは落ち着きなく通りの様子をながめ、隙あらば店を畳むことができないか思案している風にも見えた。

反対に、レース会場の入口付近は大変な混雑を通り越し、もはや混沌のありさまだった。
入場券売り場にはすでにチケット完売の札がかかっているが、諦めきれない見物客が押し合いへし合い、そこかしこで小競り合いに近い声が上がっている。
混乱につけ込んだ悪事も横行しているらしい。
――偽造チケットや転売、賭博行為、あるいはスリやかっぱらい――
いかめしい顔つきの憲兵が、民衆の間をかき分けつつ、あちらこちらでごろつきたちの襟首をつかんで連行して行った。

○○はポーチの中に入れておいたチケットを握りしめる。

――ある、よね
チケットは○○の指先に、頼りない紙の感触で応じた。

ファーリス杯は、通常行われるレースと異なり、王族の観覧があるため、平時より警護が厳重になっていた。会場の要所には兵士たちが立ち、入場門のもぎり役も普段の係員ではなく憲兵である。

観客にまぎれて、不審者が侵入するのを防いでもいるのだろう。

後ろめたいことがあるわけでもないが、チケットを呈示する瞬間はさすがに緊張が走った。

「よし、通ってよいぞ」
が、特に悶着もなく、○○はあっさりと入場を許される。

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