第8章 騎士の国の旅芸人
となるともう一つの懸念は、サーカスの出演についてはどうするのか、ということだったが、レース当日はサーカスも終日休演となり、サーカス側としても、シルビアがレースで活躍することで、ショーのアピールになるだろうと、この出走を大いに喜んでいるらしい。
で、あれば否やなどあるわけがない。シルビアの好きにするように伝えると、シルビアはまさに飛び上がって喜び、
『ありがとう!○○!』
と、○○の手にレースのチケットを握らせた。
――これは?
尋ねると、
『色々あって、ショーを見せてあげられてなかったから。』
埋め合わせよん、と微笑んだ。
どこか少年めいた無邪気な笑顔だった。
○○は、最後に鏡に向き直ると、髪の乱れを確認する。
――よし。
悪くはない。うぬぼれるわけでもないが、中々どうして、今日の顔つきは冴えている気がする。
――これから、自分は初めて、旅芸人シルビアの『ショー』を見に行くのだ。一人の観客として。
そう思うと、奇妙な感慨が胸中に満ちた。
ハラハラと待ち遠しいようでいて、どこか不安で、それでいて沸き立つような高揚感に足元を掬われるような――