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【DQ11】星屑の旅人

第8章 騎士の国の旅芸人


あらん、とシルビアは腰に手を当てると、
「でも、そうするほかないんじゃなくて?このままだと彼、本当にバラバラになっちゃうんじゃないかしらん」
「それは確かに困るのだが…いや、しかしだな…」
声を失う隊長に、シルビアは頬を寄せた。
「こう見えてもアタシ、お馬ちゃんはトクイなのよん?」
うっ、と身を引く隊長に、例の若い兵士が詰め寄った。
「名案だと思います!隊長、ぜひここはシルビアさんにお願いしましょう!!」
「あらっ、あなた随分話が分かるのね?」
若い兵士はそれはもう!と嬉しそうに何度も頷くと、
「前回の公演、拝見しました!曲乗り、早駆け、狭い舞台にもかかわらずあれほど巧みに馬を操る技術――隊長、シルビアさんの乗馬技術は天下一品ですよ!」
まだまだ渋る隊長だったが、意外な場所から援護が寄せられた。
――なんと包帯男だ。
傍らの兵士に腕を借りながら、ようやくのことで立ち上がると、
「…こうなっては、背に腹は変えられぬ。そこまでの技術があるなら、貴殿にお任せする他なさそうだ」
苦し気に吐き出した。
「…何より、万が一にでも、レースに穴を開けるわけにはいかぬゆえな…」
「ほらぁ。本人もいいって言ってるし、これで決まりねん?」
「し、しかしだな…」
まだ及び腰の隊長に向かって、包帯男は弱弱しく頷きかけた。
「…隊長殿、どうか呑んで頂きたい…」
自分の腕から騎兵の隊章を外し、震える手でシルビアに手渡した。
途端に、隊長はじめ兵士たちの間に動揺が走った。騎兵隊章といえば騎士の誇りにも等しい代物だ。それを見ず知らずの芸人に預けるなどと――

しかしシルビアは背筋を伸ばして隊章を受け取ると、胸元に当てて、
「――貴殿の誇り、確かにお預かりしたわ」
包帯男はシルビアの目を見て、初めて安堵に表情を緩めた。
サマディーの空と同じく青く澄んだ瞳だ。改めて見つめると、冒しがたい力が宿っている。――良い兵だ。
シルビアは微笑む。
「…貴殿を見込みお願い申し上げる。何卒我が隊に、名誉を…」

――包帯男は振り絞る様な一言を残すや否や、仰向けに倒れてしまった。
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