第8章 騎士の国の旅芸人
――いわく、これなる包帯男――正式にはサマディー王立騎士団第十一部隊第一等騎兵は、その卓越した騎馬技術を買われ、この度王都にて開催される伝統の騎馬レースに隊の代表として出場する予定だったのだが、運悪く数日前、城外の哨戒中に魔物に襲われて、馬に乗るどころか歩くのもままならないほどの大怪我を負ってしまったのだという。
若い兵士はため息を付きつつ、
「…本当なら、その時点で命を落としていてもおかしくない怪我なんですよ。なのに先輩ときたら…」
包帯男は切れ切れの息の下から、馬鹿者、と若い兵士を叱りつけた。
「当たり前ではないか…我が分隊は歴史ある一隊にも関わらず、これまで選手に恵まれずにレースへの出場が叶わなかったのだぞ…しかしようやく俺が、代表に選ばれた。それも我らが英明なる王子殿下、ファーリス様の誕生を祝う名誉あるファーリス杯の代表に…」
痛みをこらえつつ、包帯男は必死に言葉を継いだ。
「…我が隊の名誉にかけ、俺は何としてでも出走せねばならぬ。例えこの身がバラバラに砕けようとも…!」
と、慌てる取り巻きの兵士たちを押しのけようとするのだが、
「うう、くそ…身体が言うことをきかぬ…!」
――膝をついてしまう。
「…そういう考え方、アタシも嫌いじゃないんだけどぉ…」
シルビアは困惑しつつも、腕組みをしていた一番年配の男――恐らく隊長だろう――に向き直り、
「ねぇあなた!隊長ちゃんよね?」
「え!?あ、ああ。確かに私が長だが…」
「要は、ここの隊から、彼の代わりにレースに出られる人がいればいいのよねん?」
「それは…まあそうなのだが…」
隊長は言いづらそうに口をもごつかせると、
「我が隊は元々が歩兵隊、騎馬技術に熟達したものはこ奴の他に居らぬのだ…」
あらそうなの、とシルビアは眉を上げる。
「じゃ、こうしない?――彼の代わりに、アタシが出走してあげる」
ファン一名を除いて、その場の兵士全員が目を剥いた。
「な、何を馬鹿な…!」