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【DQ11】星屑の旅人

第8章 騎士の国の旅芸人


若い身とはいえ環境の変化は思うより堪えるもの、と医師はいくつかの薬を処方して、
「まず熱さまし。熱がある時だけ飲ませなさい。それからこちらの感冒剤は全部キッチリ飲み切ること。後は水分を多めにとらせて、汗を掻いたら着替えさせる。無理に食べさせる必要はないが、喉を通るようになったらなるべく栄養価の高いものを食べさせるようになさい」
何よりゆっくり休ませることが最重要です、と言いおいて帰っていった。

シルビアは、急ぎサーカスに休演を伝え、○○の看病にとりかかった。
数日は専念する腹積もりであったが、幸い処方薬がよく効いたらしく一時は朦朧としていた○○の意識は半日程度でしっかり持ち直した。
さらに一日すると熱もあらかた下がり、何とか身を起こせるまでにはなった。
しかし、流石に体力そのものは相当に消耗したらしく、
「大丈夫?○○。そろそろ何か、食べられそう?」
シルビアが尋ねると、○○は力なく首を振った。
「ん…お腹は、減った気がする…けど…」
――食べる気はしないのだろう。
シルビアは言葉を引き取るように頷いて、
「フルーツならどうかしら?見繕ってくるわよ」
「うん…」
宿の者に一時だけ○○を頼むと、城下町へと出て行った。

時間は昼にかかり始めていたので、大部分の露店は営業を終えていたが、果物を扱う店は幾つか残っている。
シルビアはその一角で、疲労によいという柑橘類を数種類求めた。事情を聞いた露天商は気の毒がって、
「ああ、内陸から来られたんですか。時々いらっしゃるんですよ。暑さで身体を壊される方」
表面に艶やかな脂を引いたような大ぶりのオレンジを袋に詰めてくれた。
「サマディーの果実は、そういう時にようございます。水分も糖分も一緒にとれますから」
熱疲労には酸味がよろしい、と隙間にライムやレモンも詰め込んでシルビアに手渡した。
「…ありがと。助かるわん」
「いいえ、良いご滞在を」
愛想のいい主人に別れを告げ、宿に戻ろうとシルビアが踵を返した時だった。

――表通りからサーカステントの方角へわずかに逸れた一角から、突如激しく言い争うような叫び声が上がった。
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