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【DQ11】星屑の旅人

第8章 騎士の国の旅芸人


この宿の食堂はフロントのちょうど隣に、厨房と並んで併設されている。
昼間と夜は食堂兼酒場として、宿泊客以外にも開放され比較的賑わうのだが、まだ朝早いこともあり――サマディーは朝食にあまり重きを置かない土地柄である――今は閑散としている。

質素なテーブルは整然と並んでいるが、奥の方はまだ椅子が積まれたままになっている。給仕の姿もなく、宿泊客らしき二三人の男たちが、それぞれ別の席で、静かに茶を啜っていた。

筋状になった朝の光がまばらに差し入って、舞い上がったほこりをちらちらと照らす合間を通ると、シルビアは厨房に直接声をかけ、頼んでおいた朝食を受け取った。

自分の食事は食堂でさっさと済ませ、○○の分の朝食――固パン、干した果実、野菜スープと独特の酸味があるミルクティ――を受け取り、部屋に戻る。

「○○、起きてる?」
軽くノックをしたが、返事はない。
中に入ると、部屋は先ほど出た時と何一つ変わっていない。
「…○○?」
シルビアは、一旦朝食を卓に置くと、奥の寝台――○○が使っている方の寝台に呼びかけた。
「へいき、だいじょうぶ…」
一呼吸おいて、小さな返事が返ってきた。

――が、明らかに苦しい息の下からの答えだった。

「ちょっと、なーに?どうしたのよ」
異常を察知し、シルビアは慌てて○○の寝台に駆け寄った。
果たして○○は、シーツを口元までかぶり小刻みに震えている。
その頬は、林檎のように赤く、手で触れると明らかな熱を帯びていた。
「ヤダッ、すっごい熱いじゃない!」
「ええ…どっちかって言うと寒い…」
と、身を竦める○○は、呟く合間も小刻みに歯の根を鳴らす。
――ということは、まだまだこれから、熱が上がる――
シルビアは急いで宿の人間を呼びつけ、医師の往診を依頼した。幸い宿の対応は迅速で、白髭豊かなかかりつけ医師は一時間もしないうちに到着し、○○の脈やら体温やらを丁寧に診察した後、
「感染る病ではございませんな。ご安心を」
――恐らく旅の疲れだろう、と見立てた。
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