第7章 夜に陽炎
眠れ いとし子
健やかな朝が来るまで 夜の底静かに
眠れ いとし子
嵐の夢忘れ 平らかな明日が在るように
その唇から滑り出す低く澄んだ声は、波間を舞う鳥と、咲き誇る金色の花を次々と鮮やかに描き出した。
寄せるさざ波のような旋律、夜を吹き抜ける一陣の風のリズム、蘇るのは見たこともないはずの景色、焼けつくような懐かしさを帯びて、名も知らぬ唄は殷々と続いていく――
そうしているうちに○○の意識は、とろりと和らぎ始めた。
瞼には心地よい重みがかかり、身体を縛っていた見えない糸が一つ一つ丹念に解ける。
――潮の香りと、花の香り。
誰かの厚い掌が、確かなつながりとなって○○の手を包んでいる。
今度の闇は、温かく優しかった。
閉じた瞼の裏、○○は、こちらに向かってゆっくりと降下する、幻の隼を見た。