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【DQ11】星屑の旅人

第7章 夜に陽炎


「…なにもないよ」
と口では言いつつも、どうして自分はシルビアの目を見返すことができないのか、○○には分からない。
「本当に、なんでもない…」
嘘でも、誇張でもなかった。実際にあったことと言えば、理不尽に落ち込んだこと、変わった生き物を見たこと、綺麗な青年を見かけたこと。それだけだ。
打ち明けるほどのことでさえない。あまりにも脈絡がなさすぎる。シルビアの言っていた狂乱につながるとは思えない。
シルビアは、○○のだんまりから何かを察したらしく、ちいさくため息を付いた。
「…ああ、そう」
と、一旦○○に背を向けしばしの沈黙を挟むと、不意に○○の隣に腰掛ける。
「…じゃ、当ててみましょうか?」
「ええ?」
――揃えた人差し指と中指で、○○の顎を軽く引き寄せて、街角の人相見よろしく、一通り○○の表情を眺めまわすと、
「…誰かに『悪さ』された」
問うように眉を上げた。
「…ううん。」
○○は当惑しつつ首を横に振る。
「…じゃ、自分で何か悪さをした」
言い出せないくらい悪いコト、と○○の顔をのぞき込む。
「…してない」
「本当?」
「…うん」
「じゃ、ちょっとした悪さは?」
「してないったら」
――多少憮然と、○○はシルビアを見た。
シルビアはふむ、と目を閉じて思案してみせる。
「となると後は…落ちてるお菓子を拾って食べた…?」
「…そんなわけないでしょ!」
むきになって言い返した途端、シルビアは耐えかねたように笑いだした。
「なーんてね。冗談よん」
「はぁ…?」
シルビアは○○の髪を一撫でし、
「――なら大丈夫よ。悪さしてないされてない、それだけ分かればもう充分。」
くしゃりと笑み崩れた。
「アナタが無事ならそれでいいわ。」
――まさか、からかわれていたのか。
思わず鼻白んだ○○を、シルビアは唐突に抱き寄せた。頭ごと抱えるように胸元に引き寄せて、シルビアは○○の頭頂部に鼻先を埋めた。
「――ほんと、充分なのよね、アナタがいてくれるってだけで」
「えっ」
「…時々、忘れそうになっちゃう」
――深沈とした余韻。
それはただ言葉の形をとらないだけ、語るべき何かを孕んだ沈黙が、二人の間を満たした。
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