第1章 星降る夜
――おかしな人だ
「そうときまれば、早い方がいいわね」
シルビアは立ち上がって膝についたパンくずを払った。
「昼過ぎには出発よ。」
準備が出来たら、フロントまで来て頂戴、と言い残すとシルビアはさっさとドアに手をかけた。
その背に向かって、○○は慌てて声をかける。
「あ、あの。出発って、どこへ…」
「ああ、言ってなかったわね」
振り向いたシルビアは、いたずらっぽくウインクをして見せた。
「この辺りで大きい街って言ったらデルカダールよ。興行の予定もあったからちょうどいいわ」
デルカダール、と○○は呟いてみる。口にしてみてもよそよそしい響きだった。
――何か見つかるのだろうか。
シルビアが去った途端静寂さを取り戻した部屋が妙に寒々しく感じて、○○は自分の体をそっと抱きしめた。