第1章 星降る夜
――浅はかな考えかもしれないが、他に方法がない。
シルビアの見立てが正しいなら、自分を探している人間もどこかにいるはずだ。そして自分も誰かを探すなら、情報が豊富に流入する大きな街に向かうだろう。
しかし今の○○は、そうした地理知識が完全に欠落している。一人ではおそらくこの町中を歩くことも難しい。同行者を見つけ、何とか連れて行って貰う必要があった。鬼気迫る○○の様子に、シルビアはふう、とため息をつくと、
「あのね、○○チャン」
○○の顎を、立てた指で引き寄せた。
「『なんでもする』――なんてケイソツにいうもんじゃなくてよ?」
鼻先が触れ合うほど近くまで顔を寄せると、にや、と笑って、
「アタシが『とっても悪いヤツ』だったらどうするの」
○○は反射的に息を飲んだ。
「それは、確かにまずいんですが…」
両手でシルビアの手を掴んで、ゆっくりと顔から遠ざける。
「お話を聞く限り大丈夫なんじゃないかと…」
「へえ?」
いたずらっぽい笑みを浮かべたシルビアに、
「悪人なら、こんな遠回しなこと、しないでしょうし」
全裸で倒れていた時点で売り飛ばすなり、あるいはもっと手っ取り早い悪さもできたはずだ。
あらまあ、とシルビアは大げさに身をのけぞらせた。
「赤ちゃんみたいと思ったら、あなた意外に、見てるのねえ」
「どうも…」
「ちょっと見直したわ。」
うんうん、と頷いて、
「それなら話が早いわ。○○。一緒に来たいならついてきなさいな。」
「いいんですか?」
てっきり断られるかと思ったのだが。しかしシルビアはカラカラと笑うと、
「あなたが言い出さなくても、連れてくつもりはあったわよ?」
「えっ」
「まあでも、アタシから言い出すと怖がらせちゃうかなーとか思って。」
…それも一理あるかもしれない。○○は改めてシルビアをとっくりと見つめた。確かに、一見するだけではお世辞にも信頼できる人物とはいいがたいものの、さりげない立ち振る舞いの一つ一つに品格らしきものを感じる。怪しさを上回って奇妙に惹きつけられる何か。