第7章 夜に陽炎
「○○…?」
「あ、ご、ごめんなさい」
自分で自分の行動にひどくおののく○○。シルビアは戸惑った様子で、
「…なにかあったの?」
「…ううん」
シルビアは、軽くしゃがんで、○○の目を見た。
「…怒らないから。言ってごらんなさい」
「本当になんでもないの、心配かけてごめん」
と、○○は懐からアイテムを売って得た金を取り出すと、
「これ、渡しておくね」
「あら、アナタこれ…」
ほとんど押し付けるようにシルビアに手渡した。そのまま彼の背を押し、
「ちょっと疲れちゃったから、私、休むね。」
それじゃあ、ショー、頑張って。と部屋の奥のベッドに引っ込んだ。
――シルビアは、ただただ、首をかしげるばかりだ。
「…じゃあ、アタシもう行くけど」
どうにも引っかかる、というような表情を浮かべたが、時間的にもそれ以上の追求は諦めたらしく、
「…夕食は、フロントに頼んでおいたからね。鍵はちゃんとかけるのよ」
という声に○○は小さく返事だけを返した。
そのうちに、シルビアの気配は衝立の向こうに消え、外套か何かを羽織る衣擦れの音につづいて、
「――行ってくるわね」
多少伺うような小さな言葉だけが残され、ドアの閉まる音がした。