第6章 熱砂の国
一瞬でも、真剣に見惚れてしまった。
若者は、○○の視線に気付き、こちらに向き直る。そして、
「君にも、見える…の?」
「えっ…」
思わぬ問いかけに、○○は息を飲む。人物の声は想像以上にしっかりとしたものだった。
――男の人だ。
青年が指さすのは、例の生物らしきものが去った方角だったが、その先には、もう何もなかった。
ただ人々が忙しなく行き交う異国の街路があるばかりだ。
○○はもう一度青年を見て、口を開きかけ、そしてつぐんだ。
――何を言おうとしたのか。
『知らない人に話しかけられても――』
再びシルビアの声がよみがえる。
「す、すみません、なんでもありません!」
ほとんど背を打たれたようだった。足先を返して、逃げるようにその場を離れる。
「あっ、君!」
――背中に、青年の呼び止める声が掛かった。
が、○○は振り返ろうともしなかった。いや、できなかった。
鼓動がまた、早くなる。
――青年の存在は、ただそこにあるという以上の印象で、○○の胸に一瞬で焼き付いていた。