第6章 熱砂の国
それなりの思いが込められた贈り物を、何の執着もなく売ろうとする薄情さか、
そうした代物を○○に体よく処分させようとしたことか、
それともあれほどあからさまに艶めいた意味合いをもつ物を、断り切れずに荷物の底に納めていたという事実か、
――どれでもない。どれも違う。
○○は足取り重く、街路を歩いた。
――ただ突き付けられただけ。
『この人とは住む世界が根本的に違う』と。
そして気付いてさらに愕然とする。
――そんな事は最初から分かっていたことだ。
全ては、それを承知で始まった旅であり、自分もそれをよく理解していたはずではなかったか。
にもかかわらず、いつしか何かが○○の中で変質し始めていた。
――自分が代わりに差し出せるものは、何一つとしてないのに――
○○は、とぼとぼと歩いた。
夕暮れの市街は、海からの風が僅かに吹き込み、かすかに潮の香りを漂わせている。
デルカダールとは違い、日が暮れてからの方が、大通りを行き交う人々の数と賑わいは増していた。
道の先からはやがて、小さな子供たちがパラパラと連れ立って現れ、○○の正面から横をすり抜けて、笑い声と共に通り過ぎた。
――またね、明日ね。
笑いさざめき手を振りあって、それぞれの家路に着く屈託のない顔の一つ一つが、夕日に赤く染まっている。
彼らはみんなそれぞれに、その帰りを心待ちにする人々の元へ帰るのだ。
愛し愛される者が待つ温かな家へ。疑うことも、恐れることもなく、極々当たり前のこととして。
――胸が締め付けられると、奥歯のあたりがきゅうと苦しくなる。
――サーカステントの方からは、やがて軽やかな楽の音が流れだして来た。
夜がやってこようとしている。この国の夕日は、落ちかけてからが早かった。
――シルビアはどうしているだろう。
今日はショーの打ち合わせがあると言っていた。もう向かってしまったのだろうか。
『暗くなる前には帰るのよ。』
優しい声がよみがえり、○○は空を見上げた。
――街は最後の大火炎に包まれたようだった。
巨大な太陽が、ゆっくりと外壁の向こうに落ちてゆく。
音もなくゆるゆると、周囲の大気を焦がすように揺らめかせながら。
その時だった。