第6章 熱砂の国
指輪を取って、掌に載せると、○○の前に良く見えるようにして、
「金と他の鉱物の混ぜ物ですよ。色はまあ金のようですが、よく見ると違うんです」
へえ、と○○は指輪をよくよく観察してみる。確かに、例の指輪と比べると、多少くすんでいるような質感だ。
「…もし、これが全部金だったら、いくらくらいなんですか」
思いついて訊ねてみる。主人はふむ、と唸って、
「…現在の相場ですと、まあ、4、5000ゴールドくらいでしょうな」
「5000ゴールド!」
○○は言葉を失った。
「ははは、これは正直なお嬢さんだ。ご安心を、そんなに値の張るものは露天では扱いません」
主人は、○○の率直な反応が気に入ったらしい。
「うちにあるものは、高くてせいぜい500ゴールドです。気軽な店でございますから」
すると、○○の隣から別の客が現れた。サマディー風の装束に身を包んだ、いかにも恰幅のいい女性である。
「ちょっとご主人?こちら見せて頂きたいのだけど」
「ああ、はい!いらっしゃいませ」
主人は、○○に向かって済まなそうに頭をさげると、
「あいすみません。もしよかったら、気のすむまでご覧になってくださいな」
と、新しい客の方へ向き直った。
○○は小さく礼をして、そっとその場を抜け出した。
――指輪一つ。5000ゴールドか。
○○は不意にむなしくなった。
手の中ですっかりぬるくなってしまった金貨が、かさりと音を立てた。
金貨を財布にしまい、再び歩き出す。
もし自分があの指輪を買うとなれば、いったいどれほど湿原を歩き回らなければならないのか。
――そう言えば、私も5000ゴールドだったっけ
ふと思い出して、自嘲が漏れた。
黙っていると、どうしようもない寂しさが心の中に滲む。
シルビアの端正な横顔が、思考をよぎった。
『でもアタシは要らないの』
あの突き放したような一言が蘇り、またも胸が痛んだ。