第6章 熱砂の国
「…なに?これ」
「貰いものよ。多分アクセサリーちゃんだと思うわ」
「えっ…」
いいのか、と○○はシルビアを見上げた。シルビアは軽くため息を突くと、頬に手を当てた。
「いいのよ。時々頂いちゃうの。痛い目に遭ったから基本はお断りしてるんだけど」
不要なら路銀にしてくれても構わないって押し付けられちゃうのよ、と苦笑する。
「開けないの?」
「忘れてたのよ」
気になるなら開けてみれば?とシルビアは、○○の手にある箱を指さした。
――多少気が引けたが、リボンをほどいて中を改めてみる。
「わっ…す、ごい…」
案の定、箱の中身はいかにも高価そうな指輪だった。
宝飾の知識がない○○の目にも逸品と分かる、見事な細工物である。
すらりとした鳥をモチーフにした篆刻に、細やかな宝石が幾つもきらめき、決して華美に過ぎず、深く落ち着いた品格を湛えている。
――シルビアの手にあればどれほど映えるだろうか。
○○はシルビアを見た。シルビアも、○○をみて
「どしたの?」
微笑んで小首を傾げて見せる。○○は多少躊躇いながらも、両手で指輪をシルビアに差し出す。
「…シルビア、あの、これ、すごくきれいだよ」
「本当ね。」
シルビアは一瞥したが、それ以上は特に気を引かれた様子も無かった。
指を曲げて、爪の形を確かめながら、
「でもアタシは『要らない』の」
――その表情を見た瞬間、○○の胸の奥がちくりと痛んだ。
「遠慮しないで?くれた人だって、アタシが身につけないのは承知の上なんだから。」
シルビアは、いかにも物慣れた様子で手を振って見せた。
「でも、一回くらいは…付けてあげた方がいいんじゃ、ないの…?」
と、○○はもう一度、指輪を見た。
羽ばたく姿のまま永遠に時を止めた金色の鳥は、どこかシルビア自身を思わせる。
――どこまでも自由に空を舞う、孤高の鳥。
――これをシルビアに贈った人は。
この鳥に自らの思いを託し、彼の長い旅路に添うことを願ったのではないだろうか――