第6章 熱砂の国
――シルビアはなかなか首を縦に振らない。
○○は、じれたように顔を今少し近づけた。
「お願い。私も、もっと役に立ちたいの。」
「うーん、でも…」
「…そんなに難しいこと?」
「そうじゃないわ。心配なのよ」
シルビアは、向き合った○○の頬を両手で挟むと、困ったような微苦笑を浮かべた。
「…また『悪い子ちゃん』について行っちゃうんじゃない?」
「そんなこと…」
――『前科』ゆえに、はっきり『ない』と言い切れなかった。
きまり悪そうに俯く○○を見て、シルビアは苦笑しつつ手を離した。
「…いいわよ、行ってきて」
「えっ、いいの?」
自分で言いだしておきながら驚く○○を満足げに見つめつつ、シルビアは籐椅子に深く腰掛けた。
「…でも、これだけは約束して。換金するお店は露天じゃなくて、表通りで鑑札の掛かってるところにすること。」
「うん、分かった。ちゃんとしたお店ってことでしょ。」
「そうよ。あと、知らない人に声を掛けられても、簡単についてったりしちゃダメよ」
「…分かった。」
「それから、きちんと周りを見るようにするのよ。人気の少ないところには絶対、行かないこと」
「うん。」
「それから、絶対暗くなる前に宿に戻るのよ」
「…分かった。」
シルビアは指を一つ一つ折り曲げると、
「ええと、それからそれから…」
「…シルビア。」
○○はシルビアの腕を掴んで、
「信じてよ。大丈夫だから」
――真正面からシルビアの瞳を見つめた。
シルビアの表情が、驚きから戸惑いへ、戸惑いから誤魔化すようなほほえみに変わった。
「――わかった。わかったわ。」
降参だ、という風に両手を上げつつシルビアは、
「いいわ。○○。今言ったことだけちゃんと守ってね」
思い出したように自分も荷物を探ると、
「――折角行くなら、ついでにこの辺りも換金してきて頂戴。」
お小遣いにでもするといいわ、と言って自分の道具袋の下の方から見慣れない小箱を幾つか取り出した。
どれも美しい包装紙で覆われ、金糸銀糸で縫い取られた見事なリボンが掛かっている。
シルビアのベッドの上に落下したそれらのうちの一つを○○は手に取ってみた。
思いのほか軽いが、開封された形跡はない。