第6章 熱砂の国
城下を一通り回って、取り急ぎの必需品を揃え終わる頃には、強烈な日差しも中天から退き、午後のけだるい陽光へと変わって街の隅々に伸びた。
意外なことに、サマディーの賑わいは、早朝あるいは日暮れ前後が本番である。
太陽が正午に掛かり始めると、大通り沿いに立ち並ぶ商店は、どこもかしこもいそいそと暖簾を下ろしはじめてしまう。
日が高いうちは破格の暑さゆえに、商売をはじめとする生活の何もかもがまともに成り立たないからだ。
――道を行き交うのは、不慣れな旅人たちがちらほら。
あとはそれを目当てにした根性のある露店が少々と、大半の市民はこの時間を、ひんやりと涼しい石造りの室内での休憩に当てている。
おかげで、サーカステントにほど近い一角、構えのしっかりとした老舗らしき旅人宿は、現時点でもまだ部屋数に余裕を残していた。
「大きな騎馬レースがあるっていうからちょっと不安だったけど。これでとりあえず一安心ね」
と、再び律儀に二部屋取ろうとするシルビアだったが、
「お互いやましい気持ちなんてないのに毎回二部屋取るのはお金の無駄じゃない?」
と割り切った○○がさっさと広めの一部屋に決めてしまった。
「なんかアナタ、たくましくなったわね…」
シルビアは半ばあきれ顔だったが、
「信用してるもの。シルビアのこと」
「…それはどうも」
――信用ねえ。
どうにもくすぐったいような気がする。が、シルビアは素直に喜ばしいものとして受け取ることにした。
当座の宿として確保した部屋は、建屋の奥向きに近い一室だった。
広さ十分、きっちりと寝台も二つ、そしてシルビアの厳命により、簡易だが『まともな』浴室付きである。
唯一窓の小ささだけが気にかかったが、
「そう言うものよ、この辺は」
シルビアが簡単に説明してくれた。
――他の地域と違って、サマディーでは部屋の日照については重視されていない、むしろ強すぎる砂漠の日光が、調度も室内も容赦なく焼き付けてしまうため、避けるべきとされているのだ。