第6章 熱砂の国
「それから、服と、靴と、お化粧品と…」
指を折るシルビアに
「待ってよ、まだ買うの?」
○○は流石に眉をひそめた。
「あったり前でしょん?」
――気候が違うんだから装いだって適したものに改めなくちゃ、と至極もっともらしいことを言うが、シルビアの服装はどこの地域であれ一貫した芸人装束だ。
よってここで誂えると言っているのは、○○の衣服である。
○○の鞄はかなりの部分、そうして買い与えられた衣類で圧迫されつつあった。
――どうも、シルビアには○○を使った着せ替えを楽しんでいるような節もある。
○○は首を左右に振って、
「シルビアこそ、もっと大事なことを忘れてると思う。」
「あら…なによ」
「――今日からの『宿』。」
「まっ…そ、う、ねえ」
「流石にこの気候で野宿はできないもんね?随分にぎわってるし、急いだほうがいいんじゃない?」
と、さっさとシルビアの背を押した。
足先が建物の影からはみ出し掛け、シルビアは悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっと○○!できるだけ影!影の方を歩いて頂戴!」
――今度ばかりは、たじたじとなるのはシルビアの方だった。