第6章 熱砂の国
――せめて自分も、少しくらい力になれたら。
お互いの背中を預けあう、とまでは至らなくとも、自分に飛んできた火の粉くらいは振り払えたら――
○○は、シルビアの腰に提げられた細身剣を見て、
「それなら軽そうだし、私も使えない?」
シルビアは、ふふ、と苦笑すると、
「○○、あのね」
腰のレイピアを鞘ごと外すと、
「持ってごらんなさい」
――○○に差し出した。
「えっ…」
「いいから」
手渡された瞬間に、腕が落下しそうになった。
――○○は驚愕する。
先ほど、まるで羽根のように軽やかにシルビアの手に馴染んでいた細身剣は、いざ手にしてみると想像を遥かに超えた重量だったのだ。
「おっ…もい…!」
「でしょ?まあ、確かにそれでも軽い方なのよねん」
だって剣なんて鉄の塊だもの、とシルビアはあっさり言ってのける。
言葉通りなのだろうが、こんなものをやすやすと振り回すシルビアの筋力は、一体どうなっているのだろう。
シルビアは○○から再び剣を受け取ると、腰のベルトに取り付け、
「持つべき人間が持つものなのよ。『剣』なんてものは」
ふっと目じりが和らぐ。
「――アナタにはこれからもずっと、必要ないわ」
そういうと、手の甲で掠めるように、そっと○○の頬に触れた。
「それより、もっと重要なものがあるのを忘れているんじゃなくって?」
突然険しい表情をつくると
「えっ、な、なに?」
シルビアは、きっと空を見上げ、その大きな手で目庇を作ると、
「――決まってるじゃない。日焼け止めちゃんよ!!」
と○○の鼻先を指で小突いた。
「砂漠の太陽ちゃんは容赦なくってよ!○○。」
「そ、そうなの?」
若いうちはいいけど、こういうのは後から来るのよ、とシルビアは恐ろしい顔をする。
妙な説得力だった。
引きずられるように○○は小さく頷いた。