第6章 熱砂の国
――珍しい。
というよりも、初めて足を踏み入れる。
武器屋自体は珍しくない商売だが、シルビアと○○の旅程では、これまで訪れたことはなかった。
やや緊張の面持ちで、○○はシルビアの後ろに従った。
「いらっしゃいませ」
店に一歩入ると、快適な涼しさと愛想のいい店主が出迎える。
窓の少ない店内は外よりも薄暗く、○○とシルビアの他に客の姿はなかったが、寂れているというわけではなさそうだ。
壁には、巨大な剣や戦斧、鉄の爪など様々な武器が掲げられ、そのほかにも、○○にはいまいち用途の良く分からない得物も取り揃っている。
「あら!中々品ぞろえがいいのね」
カウンターに腕をもたせ掛けると、店主はにこやかに、
「うちはサマディー王立騎士団御用達、数だけじゃなくて質もいいですよ」
ご用向きは、と尋ねる。
シルビアは腰に提げていたレイピアを外すと、
「これと似たようなレイピアちゃん、用意できるかしら?気に入って使ってたんだけど、流石に少しがたが来ちゃって。」
「かしこまりました。ではひとまずこちらはお預かりいたします」
と、言うと店主は、シルビアのレイピアを受け取って、丁寧な動作で鞘から刀身を抜き取る。
「おや、これは見事なものだ。南部デルカダール産ですな」
「お目が高いわねえ、その通りよ」
丸眼鏡を取り出して、レイピアの全体を丁寧に検めつつ、
「硬度充分、手入れもしっかりされてたようで。ただ寿命ってものだけはどうしようもない」
「そうなのよねえ…」
「ご安心ください。ちょうどいいのが入っております。」
と、言うと店の奥にいったん引っ込んでから、新たな一振りの細身剣を持って戻ってきた。
「ここから東、ヒノノギ山でとれた良質の鋼を使って、ホムラの鍛冶が鍛えた業物です。ここまでお使いの物と同じく直刃片刃、余計な癖もございません」
――シルビアの眉が僅かに上がった。
「あらん、素敵。」
見た目は地味だが、見事な剣だ。素人である○○の目にも分かる。
「試してみてもいいかしら?」
尋ねると、主人はどうぞどうぞとシルビアにレイピアを手渡した。