第6章 熱砂の国
シルビアは、『サーカステント』に気付いた○○ににっこりとほほ笑みかけた。
腰をかがめて○○と視線の高さを合わせ丸屋根を指すと、
「あれがこの前話した、サマディーの国営サーカスちゃんよん。今回は、あそこでショーをするの」
すっと背筋を伸ばすが早いか、いかにも機嫌よく両手を組み合わせて身をくねらせる。
「場所を選ぶつもりはないけど、あーいう大きいハコで演じられるってなると、どうにも芸人魂が躍っちゃうわよね~」
と、晴れやかな表情を浮かべる。
時折忘れそうになるが、やはりシルビアは根っからの芸人なのだ。
この先に待つ大舞台と大観衆を前にして、顔つきもすでに変わっていた。
――凛々しい面差しはさらに凛々しく誇らかに、華やかな笑顔はさらにあでやかに咲き誇るように。
まるで光り輝く衣装を纏ったようにきらめいてさえ見える。
――きっと本当に、愛してるんだ。
ショーを、舞台を、そしてなによりそこから生まれる人々の笑顔を。
それはただ横で眺めて居るだけの○○の心まで、何か高らかな感情で満たしていくのだった。
「見てみたいな、私も」
ふと、素直な気持ちが○○の口をついて出た。
「えっ?」
「あ…その。シルビアのショー。」
きっとすごいよね、と手をもじもじ組み合わせる。
「でも、だめなら無理にとは言わないけど…」
シルビアは目を大きく見開くと、
「ダメなわけないわ!もちろんいいわよん!」
○○の両手を取って、嬉しそうにその場で跳ねた。
思わぬ反応に、目を白黒させる○○。
「えっ…いいの?」
「いいに決まってるわよん!確かに、いっつも留守番ばかりさせちゃってたもんね…早速座長ちゃんに頼んでみるわ!○○の席、一番よく見えるところに取ってもらわなくちゃ!」
姿勢を伸ばすと、腰に手を当て、ピッと指先でサーカステントの屋根を指した。
「わあっ!ありがとう!」
「本当は今すぐにでも見せてあげたいんだけど…とりあえず今晩の打ち合わせでお願いしてみるから楽しみにしててねん!」
「はーい!」
「と、まずはその前に…」
ふと、シルビアは辺りを見渡すと、
「ちょっと寄り道いいかしら?」
商店の立ち並ぶ一角を指さした。
示したのは、通りの中ほどにある武器を扱う店だ。
「うん。もちろん」