第6章 熱砂の国
――市中には、各所で馬の姿が目に付いた。
「馬ならデルカダールでも見たけど…この国の馬は、ちょっと違うねえ」
そうね、とシルビアは頷く。
「主用途が違うからかしらね」
――○○の言う通り、これまで中央大陸で目にしてきた馬は、大抵が農耕、あるいは運搬・移動用の品種である。
すなわち、ずんぐりとした体形で、速さよりも力、そしてなにより長く働けることが重要視される馬たちだ。
しかしここサマディーでは、もっぱら競走・軍用の馬が目立った。
馬齢も若く、重きを置かれるのは脚力や見た目だ。
故に、どの馬も美しい毛並みと、すっきりとした体格、顔立ちの美馬である。
「と、まあ、色々言うけど、原種をたどれば、サマディーもデルカダールも同じなのよねん。」
「へえ…」
○○は、流れに逆らわぬよう、シルビアの隣を維持しながら歩く。
市街の様子もサマディーは特徴的だ。
建物はほとんどが、目の細かい砂や土を練り上げた、象牙色の塗装で覆われている。
岩や石や砂、そういったものが建築の主材料になっているらしい。
○○は、物珍しそうに土壁を撫でまわした。
「木の建物って、少ないんだね」
「砂漠地帯だものね。木材はかえって高価なのよ」
まるでないとは言わないが、やはりその土地に元々多くあるものが一般的な建材となりやすい。
実際、石を積み隙間を砂と粘土で完全に埋めた建物は、直射日光や熱をほぼ完全に遮断して内部を快適な温度に保ってくれる。
そうして建てられる家ばかりなので自然と景観は統一されるが、そのなかにひときわ目を引く奇抜な建造物があった。
「あれは…」
土や砂からなる落ち着いた色味の中に、鮮やかな空色の布屋根が唐突に姿を現した。
貴婦人のスカートのように、金飾りのついた中央から下に向かってふわりと裾を広げている。そのさらに下、丸パンめいてこんもりと膨らんだ布壁が重なっていた。
鮮やかな黄と深い青に染め抜かれた、自然と心惹かれる楽し気な外観である。
「あら、お目が高いわね。」