第5章 次なる旅立ち
――そうね。あるいは、そうだといいわね。
○○はきっと、そのセリフを期待していた。
ではなぜ自分は、分かっていながら、それを口にしなかったのだろう――
風は追い風南風、船足は早く快調そのものである。
この様子ならもう二三日で、サマディーのある大陸の岸壁が水平線に姿を表すはずだ。
デルカダールでは巡りあなかったもの、あるいはもっと想像もつかない、『何か』に出会うかもしれない。
――今はこの海であり、船であったように。
それは○○を、シルビアを、一体どこまで導くのだろうか。
――シルビアは、頬を撫でる夜の潮風に、ただ目を閉じる。
出来ればもう少し弱く吹くようにと、ぬるい南風にひそかに祈った。