第5章 次なる旅立ち
――あの夜。
この星空が崩れるような流星に覆われた夜、名も知らぬ町の外れで、○○とシルビアは出会ったのだ。
――そう昔ではなかったはずが、ひどく長い時間が経ったようにも思えた。
「まさか、こんな旅になるなんて思いもしなかったよ」
欄干に身をもたせ掛け、○○は苦笑した。
「海なんて、初めて見た。船も…」
そして、しんと冷えた夜の海の香りを吸い込み、うっとりと目を閉じる。
「もしかしたら、本当に、生まれて初めて見たのかもしれない」
「あら、だったら嬉しいわ」
――彼女の消えた記憶の中にもまだ無かった景色を見せられたのなら。
それはとても、喜ばしいことのような気がした。
「…寒いでしょ」
シルビアは、自分の羽織っていた毛布を○○にかけてやる。
○○は目を開けて、少し戸惑ったように、
「…シルビアのは?」
「アタシは大丈夫」
微笑むシルビアに、○○は何事か声を掛けようとして、口をつぐんだ。
ただ、毛布の端を前で掻き合わせて、
「ありがとう」
くすぐったそうに笑う。
しばらくそうして二人、無限の星空を眺めた。
さざ波の音だけが、お互いの耳の底に残る。
「サマディーなら、何か見つかるかな」
ぽつり、○○が言葉を落とした。
――まるで思わぬところから現実を突き付けられたたような
出すべき言葉が、シルビアの喉元で消えた。
「――分からないわ」
○○はシルビアに怪訝な表情を向けたが、すぐに心の中で折り合いをつけたらしく
「そうだよね。」
ニッと微笑んで会話を切った。
シルビアの心が僅かに痛む。