第5章 次なる旅立ち
「ねえシルビア」
「…なあに?」
「…シルビアってさ、本当は一体何者?」
「え…」
○○は、シルビアの目を真正面から見据えている。
眼差しにはシルビアさえ一瞬気圧される力があった。
「…やあね。知ってるでしょ」
手をヒラヒラと振って、
「『人気者』よん」
「…そうじゃなくて」
冗談めかしたセリフに、○○はにこりともせず首を振る。
「…私、確かにこの世界のことはよくわからないけど」
――こんな大がかりな乗り物を自分の持ち物にできる人間は、そうそう居るはずもないことくらいは察しがつく。
シルビアは、わずかに視線を泳がせた。
「アリスさんに訊いても教えてくれなかった」
――シルビアさんが、お話しになってないんでがしょう?
――申し訳ねえ。そうなら、わっしがお伝えできることもありやせん。
「そうねえ…」
シルビアはふっと息を吐くと、
「何にせよ人伝てに詮索っていうのは、あんまり褒められたことじゃないと思うわよ?子猫ちゃん」
「…ごめんなさい」
多少憮然とした様子で唇を尖らせる○○。
シルビアは、一本立てた指を自分の唇に当てて、
「いいじゃないの。秘密が多い方が、オンナって魅力的じゃない?」
そのまま、手すりにもたれつつ星空を見上げる。
「――それより見てよ、○○。すごい星」
「え…」
○○はまだ何か言いたげだったが、諦めた様子でシルビアの指さす天上を見上げた。
――漆黒の夜空は、まるで幾千幾万の宝石をてんでにぶちまけた様だ。
星屑は、ある所ではまばらに、またある所では細やかな霞となって渦を巻き、黒一色の空を光の濃淡で彩っている。
――二人はしばし、しみじみとその光景を眺めた。
霞みがかった星帯の色鮮やかさ、
吸い込まれそうな星雲の底知れぬ深さ、
今にも零れ落ちてきそうに瞬くとりどりの星々――
「素敵ねえ」
「本当だね」
――どちらともない、ため息が漏れた。