第5章 次なる旅立ち
もちろん、シルビア自身はこれまでの人生で、子供どころか伴侶さえ持ったことはない。望まれたことが一度もなかったわけではないが、自由を愛する気持ちが常に勝った。
が、○○を見ているとどうにも今までにない感情が湧いてくる。
庇護欲、と言うよりはもう少し当たりが柔らかいもの――
例えば、○○が一人で挑戦しようとする姿からはハラハラして目が離せなくなるし、それでいてじっと塞いでいればできる限りのことをしてやりたいとも思う。
笑顔を向けてくれれば心がほぐれ、何かのきっかけでふとその姿が見えなくなると言いようのない不安が押し寄せる。
何より、シルビアにとっては当たり前の事柄の一つ一つが、○○にとっては真新しい発見の連続で、そうした姿を見ていると、シルビア自身のものの見方も変わってくる。
――世界が一層、鮮やかに映えるように。
『いやだわ。アタシったら』
――いつあんな大きな子供を持ったのかしらと考えるたびに、唇の端には苦笑が滲む。
○○の正確な年齢は依然として不明のままだが、外見から察するに大人と少女のちょうど境ごろだろう。
それを思うとシルビアの胸は、時折痛むのだ。
――今頃、○○の家族はどうしているのか。
さぞ耐え難い、悲しみの日々を送っているのは間違いない。
もしある日○○の姿が自らの側から掻き消えたとしたら――想像することも許せない恐怖だ。
しかしそれは実際に○○と○○の家族の身に起こった出来事なのである。
デルカダールでの一件も随分尾を引いていた。
○○の姿が宿から消えたのを知ったときのあの感覚――全身から血が抜けていくような――彼自身としても二度と味わいたくはない。
そうした感慨にふけるたび、シルビアは自分に言い聞かせることが多くなっていった。
――アタシはあの子の『親』じゃない。
このまま旅を続けていれば、いつかシルビアと○○は必ず『その時』に巡り合うのだ。
――○○が本当に『あるべきところ』へ帰る瞬間に。
それは何も、昨日今日分かった事実ではない。
――元々そういう話ではなかったか。
にも関わらずなぜ、それを思うだけで自分の心は乱れるのだろうか。