第5章 次なる旅立ち
だって、と○○はもじもじと両手を組む。
「シルビアには、いつもよくしてもらうばっかりだし…」
「あら、そうかしら」
シルビアはカップの紅茶を一口飲むと、
「○○だって色々手伝ってくれてるじゃない。」
――だが、小道具類の手入れや、荷物の整理など、子供にでもできるような簡単なことばかりだ。
○○は唇を尖らせると、
「でも、もっとこう何か、ちゃんと役に立つことを――」
「自分にできる範囲で精いっぱいやってるんだからいいのよ」
シルビアはあっさりと答えた。
「それも含めてアタシはアナタと旅するって決めたんだから。気にしないで」
片目をつぶって見せる。
そして横目に○○を軽くにらむと、
「だいたい、アナタそうやって背伸びしようとして痛い目に遭ったの、もう忘れたの?」
「う、それは…」
痛いところを突かれて沈黙する○○。
シルビアはふっと表情を緩め、
「もとより長旅は承知の上よ。○○は余計な心配しないで、自分のことだけしっかり考えなさい」
と、○○の鼻先を指ではじいた。
「それにアタシ、とっても売れっ子なのよ。多少の余裕ならあるんだから」
「そ、そうなの?」
「そうよぉ?見ててわかんなかったかしらね?」
――確かに。
思い返してみれば、デルカダール王都、特に上層界隈ではシルビアの名前はかなり通っているようだった。
貴族の館で開催されるショーは毎晩満員御礼状態だというし、街を歩いていても先々で呼び止められ、サインや握手を求められる。
時には花などの贈り物が渡されたし、商店ではそれなりの額の支払いさえ免除されることもあった。